変人達の考え事

変人(複数)が各々考えたことを書いています。

偏差値は何を表しているのか。

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 学力偏差値とは何か。

 ざっくりと言えば、ある集団の中でその得点が、得点の散らばりを考慮したうえで、どの程度優れているかを表すものである。これのおかげで、試験の難易度や形式が違ったとしても、その集団の中での自分の位置を知ることができて便利である。ということで、受験を考えるときの指標としてよく使われている。

 しかしながら、この学力偏差値という概念は、よく使われている割にはちゃんとわかっている人が少ない。おかげでよくわからない勘違いが起きたり、奇妙な議論が生じる。というかそもそも、現在の大学受験という観点から考えたときに、学力偏差値という概念にさほど意味はないのではないかとすら思っているのだ。

 学力偏差値の持つ要素。

 以下、数式を極力用いずざっと進めるため、詳細は脚注やウィキペディアを参照されたい。

 学力偏差値は、得点、平均点、標準偏差の3要素から算出される値である。*1そして、標準偏差というのはその試験における受験者の点の散らばりを数値化したものである。*2この標準偏差は、散らばりが大きいほど値が大きくなり、散らばりが小さいほど値が小さくなる。

学力偏差値の算出方法。

 ここで、わかりやすい値を一般的に少し出してみると、

    

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 このようなものとなる。

 もちろん、これは上下にそれぞれどれだけでも続いてゆく。従って、学力偏差値がとり得る値に上限や下限が存在しない。より正確に言えば、試験によってその範囲が異なるのだ。標準偏差、即ち点数の散らばりが小さければ、学力偏差値の取り得る範囲は大きくなるし、標準偏差が大きければ学力偏差値の取り得る範囲は小さくなる。

 具体的な値で少し極端な例を考えてみる。平均点が80点、標準偏差が10点の試験では、

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このような得点と学力偏差値の関係が生まれる。

 そう、今回のように学力偏差値は0を下回ることも、今回の例では生じないが100を超えることもあるのである。 まれに、比喩的な表現でこの点を勘違いした誤用が見られるが、学力偏差値の取り得る値に上限や下限はないのである。

 ただ、試験によって取れる偏差値の上限や下限は当然存在する。そしてそれは平均点と標準偏差に依存する。ここに大きな問題があるのだが、それについては後述する。

学力偏差値の問題点。

 では、何故このような面倒な処理をしてまで、学力偏差値という値を導入するのか。それは、試験の難易度や形式、受験者数に依らず、集団の中での自分の相対的な位置を知ることができるからである。

 原理は、試験を実施すればその得点の分布は正規分布になるはずだ、と考えらえているからだ。*3正規分布では、平均点よりも標準偏差の何倍点数が高ければ、上位何パーセントに入っていて、逆に平均点よりも標準偏差の何倍点数が低ければ下位何パーセントに入っている、ということが数学的に明らかになっている。そのため、同じ集団の中ならば、違う試験と比べて自分の成績が良くなった、悪くなったがわかるというわけだ。

 しかし、ここにも大きな問題がある。確かに、学力偏差値を使うことで自分の位置は知ることができる。ただ、それはその試験を受けた集団の中での話であって、同じ試験で同じ点を取っても、受けた集団が変われば当然学力偏差値は変化する。そのため、ある大学の偏差値はいくらだ、というような話では、どの集団における学力偏差値を見ているのかによって、全く話が変わってきてしまう。偏差値を考える際には、どの集団におけるものなのかを明らかにしなければならない。

 そして、確かに学力偏差値は形式にもよらず、自分の位置を明らかにしてくれる。しかし、人によって得意としている問題の形式は違う。目指している大学に合わせた勉強をしていれば、上達する形式も違う。そして、試験の形式が変われば立ち位置だって変わるにに決まっているだろう。にもかかわらず、統一模試などといって、全く違う大学を目指す受験生が受ける試験を受けて、その学力偏差値を重視し、大学をランキング付けする。それにそこまで大きな意味はあるだろうか。*4

 加えて、問題の難易度と形式によって偏差値を上げることの難しさの方向性が全く違うのである。受験者数やその層が大きく変化しなければ、入試本番に必要とされる学力偏差値はさほど変化しない。そのためその偏差値によって大学は序列化されがちではあるが、そう容易く並べられるものではない。平たく言えば、東大や京大は難易度が高い問題で平均点が低いため、偏差値を上げるにはそこまでの正解率は必要としないが難しい問題を解けるようにならねばならない。一方で医学部医学科は難易度は標準で平均点が高いため、難しい問題を解けるようになるよりは、正解率をとことん上げる必要がある。このような全く異なる努力の結果、両者の学力偏差値に差はさほどないが、その努力は単純に比べられるものではないのである。

まとめ的な何か。

 決して私は学力偏差値は全く無意味であるなどとは考えない。ただ、大学の比較には容易に使えるものではないと主張したいのである。皆頑張った種類が違うのだから。

 

参考:学力偏差値 - Wikipedia正規分布 - Wikipedia

 

*1:数式で表せば、(自分の得点 − 平均点) ÷ 標準偏差 × 10 + 50

*2:きちんと書けば、受験者それぞれの得点と平均点の差の2乗の平均値の平方根を取った値である。単位は得点と同じになる。

*3:ざっくりと考えれば、採点をすれば各問題に対して正解率が生じ、その正解率に基づいて、得点の期待値を計算すれば正規分布になるはず。

*4:本当の学力を身に着ければ形式などに惑わされない、という考え方は一理ある。しかしながら、問題の形式の癖が強すぎる場合にはその問題に合わせた訓練が必要となり、この慣れや特殊な能力で合否が決定する。そして、その能力こそが入試問題から語られる大学が欲しいと考える学生像である。