変人達の考え事

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横綱・大関昇進の基準とは?

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御嶽海優勝

 大相撲名古屋場所は御嶽海の優勝で幕を閉じた。3横綱1大関不在で、残る2大関のふがいない成績の中、優勝争いを引っ張り見事13勝2敗で初優勝を決めた。14日目にすでに優勝を決め、千秋楽に豊山に負けてしまったのは残念だが、千秋楽の一番も含め負けた相撲も決して内容は悪くないので、来場所に向けて頑張ってほしい。そして、阿武松審判部長も言っていたように、御嶽海にとって来場所は大関とりの場所になる。先場所小結で9勝、今場所関脇で13勝しているため、大関昇進の目安である直近3場所三役で合計33勝に届くためには来場所で最低11勝が必要になる。ただ、本当に11勝でいいのだろうか。

 

 

 

「終わり」よければすべてよし?

 近年の横綱・大関昇進はどこか直近場所の影響を強く受けているように思える。たとえば稀勢の里。2016年九州場所は3横綱を破るも平幕に3敗し12勝どまり。続く初場所が綱取り場所だという認識は恐らく誰にもなかっただろう。しかしこの初場所で14勝1敗の初優勝を果たし、場所後に横綱に昇進した。一部では甘すぎるとの意見もあった。横綱昇進の基準は、「直近二場所で優勝、もしくはそれに準ずる成績を上げること」となっている。確かに九州場所での12勝は優勝した鶴竜に次ぐ成績だが、鶴竜は14勝で星2つも離されており、しかも鶴竜は千秋楽を待たずして優勝を決めている。はたして「優勝に準ずる成績」なのかは疑問だ。ではこれが逆だったらどうだろう。つまり九州場所で優勝し、続く初場所は12勝どまり。これでも昇進した可能性はゼロではないが、おそらく無理だっただろう。

 この事例にきわめてそっくりな話がある。それは大関栃東だ。2006年初場所14勝1敗で3度目の優勝を飾るも、続く春場所は12勝3敗。横綱昇進はかなわなかった。ただこの春場所は13勝2敗で決定戦に進出した横綱朝青龍、関脇白鵬(当時)両方に栃東は勝っているのだ。先ほどの、稀勢の里の事例を逆にしたパターンとどこか似ている。つまり、初場所12勝で春場所優勝なら昇進していた可能性があるのだ。

 別の事例を紹介する。12年前の名古屋場所に大関とりをかけた関脇雅山。元大関だがけがもあって1年ほどで陥落。その後長く幕内にとどまっていたが、2006年は調子が良かった。春場所関脇で10勝を挙げると、続く夏場所は14勝1敗で優勝同点。(この時、決定戦で新大関白鵬が初優勝を決めた。)そして臨んだ名古屋場所。ただ思うように星は伸びず、10日目終わって5勝5敗。完全に大関挑戦の夢は終わったかに思われた。しかし、ここから雅山は5連勝。結局10勝5敗だった。これで、三役三場所合計34勝だ。数字だけ見れば大関に上がることのできるものだ。しかし、結局大関復帰はかなわなかった。ではこれも夏場所14勝、名古屋場所10勝→夏場所10勝、名古屋場所14勝ならどうだろう。おそらく稀勢の里同様、昇進ムードが起こり実現したのではないかと思う。

 スポーツの世界で「たられば」を語るのが無粋なのはわかっている。ただ、これらのたらればから考えて、結局横綱・大関昇進にあたってその直前の場所がかなり重要になるのだ。ムードが大切なのだ。そのムードは、大相撲ファン、メディア、そして相撲協会内で起こるものだ。稀勢の里の場合も、9日目に琴奨菊に敗れたものの、それ以外の相撲は素晴らしく、これだけ強いのならあげてやろう、と協会も思ったことだろう。その前の場所、平幕の遠藤、正代、そして栃ノ心(当時)に完敗したことはもう忘れていたことだろう。優勝すればおのずと昇進ムードは高まる。逆に、先場所好成績でも今場所微妙だと、雰囲気も悪くなる。ならばいっそ、昇進の基準に「直近の場所を盛り上げた」と書いてもいいんじゃないかとも思う。

何勝で昇進できる?

 数字上はさきほども言ったように11勝だ。ただ、これまでには3場所合計33勝未満でも大関に上がったケースもそこそこにある。(豪栄道、稀勢の里は32勝だった)ではなぜ彼らは大関に上がれたのか。たとえば豪栄道。2014年の春場所12勝、夏場所8勝、名古屋場所12勝で昇進した。12勝に挟まれて夏場所の8勝はさすがに・・・とも思う。ただ、夏場所、名古屋場所と横綱白鵬を破り、名古屋場所の12勝は優勝した白鵬の13勝に次ぐ成績だった。さらに、豪栄道はそれまで関脇に14場所連続在位し、安定した成績を誇っていた。こういうことも加味されて大関に上がれたのだ。(大関昇進後の彼の成績の悪さについては触れない。)稀勢の里についてはもう、国民感情もあると思う。真面目に相撲に打ち込み、正々堂々と立ち向かうその姿に心を打たれたファンも多く、昇進させたいと思うだろう。稀勢の里の場合は、2011年名古屋場所10勝、秋場所12勝、九州場所10勝だった。さらに言うと、稀勢の里はそれまでも何場所も三役に在位し、なにより九州場所までの6場所のうち3回白鵬を破っている。(白鵬の連勝を63で止めた一番もこの中にある。)やはり成績が安定していることが大事かと思われる。

 そこで御嶽海について考える。これまで9場所連続三役在位。このうち二けた白星は今場所のみだが、安定した成績がうかがえる。さらに、たびたび上位陣を倒しており、三賞も何度も受賞している。昇進に向けた土台は完璧だろう。

 ただ今場所の優勝は、横綱不在という事態が引き起こしたともいうことができる。来場所再び3横綱が出場したら、今場所のように大勝ちできるとも限らない。(もっとも、稀勢の里に関しては御嶽海のほうが完全に強いと言えそう。)だからこそ、白星の数より内容だろう。たとえ4敗、5敗してても白鵬を倒すなど上位陣と善戦していたら昇進は可能だろう。一方、引く相撲が多かったり、下位の力士に負けてばかりではうーん、どうだろうと疑問の声も上がってくる。

 一方で上位陣がどこまで強いのかも疑問だ。大関高安を除いて全員30代。しかも結構けが持ち。白鵬の今場所三日間の相撲は安定しているようにも思えたが、実際指のけがなどけっこうぎりぎりのところらしい。鶴竜も春場所からいい流れでいただけに、今場所を機にその流れが切れちゃったかも・・・。稀勢の里についてはまた述べたいと思う。栃ノ心もここまでいい成績で来たものの、来場所はカド番だ。不安定な上位陣を見ていると、御嶽海の連覇も十分あり得る。正直昇進に向けた白星勘定をすることなく連覇だけを考えてほしい。

結局のところ

 横綱・大関昇進は結局のところ人間が決めていることから、いろいろあってもおかしくはない。昇進の基準があいまいなのも、仕方ないとしか言いようがない。実際、本人の知らないところでいろんな人の思惑が動いているのも確かだ。とにかく上に上がりたければ、文句のない成績を土俵の上で挙げるしかない。御嶽海は若いから、これがラストチャンスということでもないが、一発で昇進を決めてほしい。大関と言わず、横綱まで一気に駆け上がれる存在だと思う。